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​園医について

NPO法人 メルヘンこども園では、アントロポゾフィーの医師 安達晴己先生に園医としてきていただいております。

アントロポゾフィー医療では、こどもの成長や健康を身体という側面だけで診るのではなく、ひとりの人間として全体を診ていきます。

健診の際には まずこどもが遊ぶ様子をじっくり観察し、その後一人一人の健診をするという形で園児の健康への支援をしていただいています。

また教員や一般の大人へも教育や医療にかかわる講座を開催してくださり大変信頼をおいております。

今回は2018年にメルヘンこども園を支える会会報誌「青い鳥の会」に寄稿いただいた文章をご紹介いたします

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メルヘンこども園のみなさま、その支援者の方々、今回初めて寄稿させていただきます、福岡に住んでいる安達晴己と申します。

自己紹介を最初にさせていただくと、私は普段プライマリケア医として通常医学の地域の診療所で外来と訪問診療をしている医師です。またアントロポゾフィー医学認定医でもあり、自宅の近くにプライベートのクリニックをもっていて、そこで週に3日自由診療でアントロポゾフィー医療の実践をしています。教育との関係も深く、福岡県福津市にある、シュタイナー幼稚園や小学生対象の土曜クラスなどを運営するNPO法人賢治の学校ふくおかの、理事であり幼稚園・小規模保育園の園医をしています。福岡には全日制のシュタイナー学校があり、そこの校医でもあります。私自身のアントロポゾフィーとの出会いが、自分の子どもたちを通じたシュタイナー教育との出会いでしたから、医学より先に教育を体験しました。

2004年から日本で行われた、アントロポゾフィー医学医師の養成のためのゼミナールに参加し、2010年に認定をいただきました。2012年からは日本のアントロポゾフィー医学の医師の団体である、現在の日本アントロポゾフィー医学の医師会の代表も務めています。

アントロポゾフィー医学の紹介をさせていただきます。アントロポゾフィー医学はシュタイナー教育の創始者でもあるルドルフ・シュタイナーが、イタ・ヴェーグマンという女性の医師と一緒に体系化した医学です。シュタイナー教育ももうすぐ100周年ですが、アントロポゾフィー医学もだいたい同じくらいの歴史となります。ドイツやスイスでは、シュタイナーの時代からの歴史ある病院や、民間総合病院としてのアントロポゾフィー医学病院もあります。診療所はかなりたくさんあります。ヨーロッパではアントロポゾフィー医療の一部が保険も認められていて、患者さんが選択することができます。世界的にも、アメリカや南米、アジアにも広がってきています。

 特徴としては、シュタイナー教育と同じ人間観、世界観をもっていて、体の一つ一つの器官・臓器の捉え方も、病気の捉え方も独特です。しかし大事な原則として、通常医学を決して否定しないということがあります。通常医学的な診断は必要ですし、検査や手術が必要で有益なことは当然あります。抗生剤や化学療法(抗がん剤)、その他のお薬なども有益なら使うべきだと考えます。ただ、病気を治療するのは、それらだけではないと考えています。人間を、科学的な実験の結果だけで説明できる存在だと考えれば、通常医学の方向性のみでもよいかもしれません。しかし、確かに人間にはそういう領域もあるのですが、自然科学だけでは解明できない、見えない領域があると考えます。もしそう考えるなら、いわゆる対症療法にもより有益なものがある可能性があります。さらに言えば、病気の根本的な原因や健康を促進する因子や手段などは通常医療より豊かな可能性を持っていると言えるかもしれません。ですから、シュタイナー自身がアントロポゾフィー医学は通常医学の拡張であると言っています。私たち医師一人一人も日々の臨床の中で、それを実感しています。

 

 今日は健康を支えるシュタイナー教育というテーマで書きます。幼児期は人生の土台である、というのは、みなさん反対はないかと思います。生まれて、まだ自分で食べることも歩くことも話すこともできなかった子どもたちが、1年で大きく成長します。体重は幼児期に3倍以上になりますね、人生で一番の増え方です。感染症に負けないための免疫も幼児期に大きく成長します。また、体の中で幼児期に一番成長して完成に近づくのは脳や神経、感覚器だと言われています。これらが、幼児期に十分成長することが、のちの将来を健康に生きていく土台になることは、十分想像できると思います。

例えば、最近アレルギーの増加は問題になっていますが、よく似たグループの病気に、自己免疫疾患、つまりリウマチなどの膠原病や、潰瘍性大腸炎などの、免疫が暴走して自分の体を攻撃してしまい炎症を起こすタイプの病気があります。これらの発症は大人になってからですが、その原因である免疫の土台は明らかに幼児期に作られています。

また、がんも増加していると言えますが、がんを生じたり抑制したりする遺伝子は続々と判明しています。その遺伝子はやはり免疫を規定しています。癌細胞が小さい時に免疫系が正しく働くと、きちんと排除してくれるのです。

さらに認知症の増加も問題ですが、認知症は今日では脳の代謝の異常、つまり脳に沈殿物が生じるのが原因とされていますが、脳の血流も問題です。そういう脳の根本的な構成は、9歳までに完成すると言われていて、6歳までに大人の80%くらいの脳が成長します。この時期に十分健康な脳を構成しておくことは、大きく言えば、認知症の予防にもつながる可能性があると言えます。

シュタイナー教育の特徴の一つは、年齢に応じた教育をするということです。つまり前倒しをしないということです。

幼児は脳が成長する、と聞けば、その発達を助けるにはお勉強や暗記をしたらいいのではないか、と思われる方がいるかもしれません。しかしそうではないのです。脳を使う活動ではなく、脳を成長させる活動が必要で、それは体を十二分に動かすことや感覚をたくさん刺激することなのです。そして幼児期に重要な刺激は、多様性です。からだを動かすときに、スポーツなどであるきまった型を練習するのではなく、自然の中でいろいろな動きを体験することが重要です。ジャングルジムで決まった動きで頂上に行くより、木登りでいろいろ手足の位置や使い方を工夫して登る方が、体をとおして脳や神経を発達させるには有効なのです。また感覚刺激も、人工的なものは身体的には実はどうしても単調な刺激になります。

プラスチックの表面がいかに均一にできているかは、皆さんもご存知だと思います。またテレビやパソコンの液晶画面は、実はたった3つの色の組み合わせです。なので視覚的にとても単調な光しか体験していないのです。しかし、自然界にはそのような単調なものは決して存在しません。そして脳や神経を育てるには、自然素材の多様な知覚や自然の中で触覚や聴覚や視覚が同時に多様な形で刺激を受けることがとても重要です。

ちょっと余談ですが、バーチャル、映像や電子機器での体験の問題の一つは、この感覚刺激がバラバラであるという点にあります。からだはソファーにいて、目はジャングルの様子を見ている、これは、昨今発達障害のお子さんに有効だと言われている感覚統合療法の反対をしているわけです。つまり子供の成長に重要な感覚が調和的に育たない危険性があります。

自然の中で体を自由に使って遊ぶ、自然素材を大事にするなどは、本来あまり特別なことではなく、古来大事にされてきた子育てだったと思います。それを意識的に重要なことだと捉えているのがシュタイナー幼児教育だと言えます。そこで大事にされていることは、実は最新の知見と合致しているのです。

他に最近の健康と病気をめぐる話題というと、レジリエンス、という言葉を聞いたことがありますか?これは、ストレスと対をなす言葉で、弾力性とか抵抗性とか訳されることもあります。つまり折れない心のもとになる性質だと言っていいでしょうか。

最近は、心が折れやすい若者についてたびたび話題になります。若者だけではなく、中高年の引きこもりが問題となっています。また教職員のうつ病による休職の増加も言われています。それらは単純な問題ではありませんが、一つの側面として、このレジリエンスの強さが関係しているのではないかと言われています。

また、これまでの病気の原因を探る学問と別に、健康でいられるのはなぜかを探る学問も新たに生まれていて、健康生成論と呼ばれています。健康生成論では健康を保ちえる力とは、その人にとって困難な出来事が起きた時に、自分はそれを理解できると思える力、自分にはそれを解決する能力がある、例えば解決できる人やものに頼れると思える力、そういう困難なことにも意味があると思える力、の三つが関係していると言われています。あわせて首尾一貫性感覚と呼ばれていますが、つまり自分は一貫した存在だと感じられる、ということです。健康でいるためには、そういう感覚が発達している方がいいというのは様々な研究でわかってきています。しかしその発達は、実は医学の話ではなくて、教育の話なのです。

シュタイナー教育は、自由な教育ではなくて、自由への教育と呼ばれています。この自由とは、先入観や狭い見方で縛られるのはなく、広い視野で自分や世界を見れること、外側からの押し付けではなく、自分の良心に基づいて、自分の意志で行動できることを指していると思います。そして、それができる自分自身でいる、ということは、まさにさきほどのレジリエンスや健康生成論的な、困難があっても自ら健康でいられる能力と関係していると思うのです。

(※会報誌「青い鳥の会」2018年7月 第69号号より)

 

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安達 晴己 (あだち はるみ)

 1994年佐賀医科大学卒。プライマリ・ケア認定医、アントロポゾフィー医学認定医。2022年11月よりすみれヶ丘ひだまりクリニック、そよかぜクリニックに勤務。2011年より福岡県福津市に「小さいおうち自由クリニッ ク」開設。2016年より一般社団法人日本アントロポゾフィー医学の医師会代表。

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